第3章

3/12
1900人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
「え、もらってもいいんですか? でも……悪いんじゃ……」 「そんなの気にしないで。俺が勝手にしたことだから」  予想通りのセリフを返す男に、宇坂はにっこり笑って、「気を遣わせてしまってすみません。だけどすごく嬉しいです」と答える。我ながら白々しいなと内心苦笑した。  今まで宇坂が使用していた物もブランド物だったが、月城が寄越したのはその金額の倍くらいはしそうだった。素材の質感からして明らかに違うし、丁寧な縫製からは大量生産のにおいがまったくしない。  移動した二軒目の店で万単位のワインを空け、店を出て別れた。もちろん支払いはすべて月城が持った。……援助交際でもしている気分だ。  月城は頭のいい男だ。豪華な食事や高価なプレゼントは、相手の興味をひき、そこに留める要因にはなり得るが、実際それで好意を抱くかといえば、その可能性はないだろう。そんなことくらい月城なら理解できそうな気がするのに。恋愛は人を愚かにするが、月城も例外ではないのかもしれない。でももしかすると、端から宇坂の好意を得ようというつもりは毛頭なく、少しでも長く引き留めるだけの手段だとわかった上でのことなのかもしれない。  月城のような男が、惨めな真似をしているのがひどく不自然で……可哀想に思えた。もしも彼がゲイでなかったとしたら、一生無縁な事柄だった筈だ。そこまで考えて、自分にこんな風に思われていること自体が哀れだと思った。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!