第3章

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「宇坂くん、何かいいことでもあった?」  月城の自宅へ行くと、待たされることもなくテーブルの上に手の込んだオードブルが並び、宇坂の好きな酒が置かれた。無意識に顔が緩んでいたのか、月城にそう訊ねられて、「そう見えますか?」と誤魔化すみたいに笑った。  月城は直前まで仕事だったのだから、この料理はあらかじめ用意していたのだろう。言葉の端々、態度からも宇坂がこの部屋を訪れることを心待ちにしていたことが窺える。 「あ、これも美味しい。どれもワインによく合いますね」  洋梨の生ハム添え、シュリンプカクテル、カプレーゼ。どれも美味しく見た目も綺麗だ。 「職業柄なのかやっぱり月城さんって器用ですよね」  それはお世辞でなく本心だったが、そんな何気ない一言にも月城は嬉しそうな顔を見せる。見ているこちらが照れてしまうような、そんな表情。自分のことが本当に好きなのだろう。宇坂はやっぱりそのことが不思議でならなかった。 「月城さんはどうして俺のことが好きなんですか?」  月城が軽く目を見開く。  その手の話は意識して触れないようにしていた。月城は宇坂に飲み友達以外の何かを求めてこないが、こちらからその類のネタを振れば、わざわざ付け入る隙を与えてしまうことになる。充分理解していたのに、月城への興味と単純な好奇心に負けてしまった。
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