深夜のラジオ局 1.

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 バイト先の上司に確認しようかと思ったが、電話やメールをするにも遅すぎる時間だ。 「ちょっとだけ行って、すぐ帰ろう」    幸い、バイト先までは自転車を飛ばせば五分ほどでいける。歌穂は気持ちを奮い立たせて玄関を出た。  歌穂のバイト先はFMラジオ局だった。  大学に入学してしばらくした頃、大学の先輩から「FMわかば」で学生アルバイトを募集していることを教えてもらった。普段は積極的なタイプではない歌穂も、その情報を聞くと居ても立ってもいられなくなり、それほど親しくもない先輩に自分から聞きに行った。 「どうしたら働けますか?私……ラジオが大好きなんです!」  歌穂の勢いにやや圧された先輩に連絡先を教えてもらい、その場で局の代表番号に電話をかけた。我ながらそのときの情熱と瞬発力は、とても自分のものとは思えない。  そして電話の後で面接をしてもらえることとなり、めでたく働くことが決まったのだった。ラジオ局、ということもあって応募は殺到していたようだったが、歌穂が見事にその職を得られた理由は「何だかラジオをよく聴いてることがわかったから」だと後で聞いた。 ──確かにラジオはよく聴いてるけどね……。     
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