深夜のラジオ局 1.

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 もっと「君のここがよかった!」というような前向きな採用理由が欲しいと思う歌穂だったが、まあ無事に希望のアルバイトが決まっただけで御の字だ。  現在歌穂は、ラジオのオンエアで使うCDを整理し、管理するという「CD資料室」で週に三回ほど働いている。 「FMわかば」はたくさんのオフィスが入っている高層ビルの中にある。セキュリティもしっかりしているし、ビル内も常時警備員さんがいてくれて安心だ。  しかし時計を見ると深夜二時近い。スタジオは二十四時間立ち入り可能だけれど、この時間には生放送はないと記憶していた。事前収録した番組が流され、ミキサーと呼ばれる人たちや技術関係のごく限られた人間しかスタジオ周辺にはいないはずだった。  アルバイトとは言え関係者の歌穂は、スタジオパスを渡されているので基本的にいつでも自由に出入りできる。 「ここで働くようになってもうすぐ半年だけど、こんなに遅くにスタジオに入ったことないなぁ……」 ──ちょっと緊張する。 誰かに出くわしたら「忘れ物を取りに来た」と正直に言うつもりだった。しかし面識のない人が夜間にはいて、立ち入ったことを怒られる可能性だってある。 ──無事に充電器を取って帰れますように。     
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