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歌穂は思わずスタジオ入り口に平積みされていた「FMわかば」のタイムテーブルを広げた。現在オンエアされているすべての番組が曜日、時間ごとに記載されている番組表だ。勤務している手前、そしてラジオ好きを自負するからには、歌穂はすべての番組を把握しているつもりだった。
しかし、やっぱり「モノノケレディオ」なる番組は存在しない。
「……載ってない……なんで?」
歌穂は勇気を出してAスタジオを覗きに行った。オンエア中はスタジオの扉は開かれている。スタジオ内にはディレクターとアシスタントディレクターとミキサー、奥のDJブースにパーソナリティがいる。
Aスタジオに近付いて、何気なく点灯表示を見上げて歌穂は「あっ」と息を呑んだ。スタジオの表示が「A」ではなくいつの間にか「ゐ」に変わっているのだった。
「スタジオ……ゐ?」
うまく発音できたのかどうか心許ない歌穂だった。
おまけに思い切ってもう一度スタジオの中を覗くと、まったく見たことのないディレクターとアシスタントディレクターがこちらを不審げな目つきで見返してきた。
見た目の年齢から想像するに、ディレクターは長い黒髪の三十台くらいの男。アシスタントディレクターは小柄な若い男の子だった。長髪男は目つきが悪く、小柄な子のほうはくりくりとした目で私を見つめ、目が合うとぺこんと頭を下げてくれた。
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