伴侶

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 ーー何を考えていたのですか、と問われ、お前との馴れ初めを思い出していたんだよ、と答えると、郁恵は少し驚いてまた微笑んだ。  聖母の如く、郁恵の微笑みは美しい。  子供達も郁恵の笑顔が大好きだった。    あれはいつだったか。2人の娘がまだ小学生の頃か。郁恵に内緒で、料理をしたいと私に申し出てきた。はじめはまだ料理は危険だと反対したが、もうすぐ母の日だから、お母さんに何かしたいと言う。  テレビCMでそんな謳い文句があったなと思いつつ、娘達の作りたいという料理のレシピを調べ、当日は妻を外に連れ出した。  母親の勘というものなのか郁恵は薄々彼女たちの目論見に気付いている風で、唇をすぼませて笑いを堪えている。  私に下った司令は、指定された時刻まで妻を帰宅させないこと。娘から与えられた、久しぶりの2人だけの時間。お互いときめく気持ちは無いが、かわりに安定した安堵感がある。  大きな池のある公園で、手をつないでのんびり歩く。郁恵の歩幅は小さく、うっかりすると彼女を引っ張る状態になってしまうので、私はゆっくり歩を進める。 「こういうのも、たまには良いな」  ポツリと漏らした本音に、隣からひっそりとした笑い声がした。丁度同じことを考えていたのだと、彼女は言った。  帰宅後、娘達の作った豪華な食事に郁恵は嬉しそうに驚いた。娘達は母親の笑顔を見て感極まったのか、泣いた。  みんな、郁恵の笑顔が大好きなのだ。
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