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薄氷が溶けていくように、夜の幕が朝日を透かし始めた。郁恵の手が、温かい。
郁恵、と名を呼べば、妻は慈悲に満ちた笑みで私を見つめる。
「今日は、君の誕生日だったね。側に居てくれて、ありがとう」
どういたしまして、とクスリと笑いながら郁恵は私の頬を優しく撫でる。母親が子に為すような優しい愛撫に瞳を閉じた時、妻は言った。
「あなたと夫婦になれて、幸せでしたよ」
「……ありがとう」
ありがとう。
伝えたい想いはこの言葉以上の物なのに、どれほどの言葉を連ねても、私の想いは伝えられないかもしれない。
「大丈夫ですよ。あなたの気持ちは、十分伝わってます」
さあ、と妻は私の手を引いた。
また2人で手を繋ぎ、光の水辺を歩いて行こう。
君のお陰で、最良の人生だった。
最後にまた君の笑顔を見れて良かったーー。
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