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 ピピピピピという電子音に瞼を勢いよく上げる。  目の前に、保の裸の胸があり、混乱した。  幼馴染みは目覚まし時計をとめ、微笑みかけてきた。 「おはよう」  あれ? 朝? 「お、はよ……」  ん? 俺ら、やろうとしてたよな? ん? あれ? 俺、もしかして、寝た? しかも、抱きついたまま?  俺は、おずおずと、保の背中に回していた手をどかした。 「悪かった。今からでも」 「俺が無理させたんだ。庸輔が気にすることはない。それに」  額にキスを落とされる。 「いい夜だった」  抱きしめられて身動きできなねぇ夜がか? 「飯、食べるだろ?」  保がベッドから抜け出る。 「今日はスケジュールみっちり入ってるからな。ちゃんと食べろよ」  朝食らしい朝食を採り、講義の予習時間確保のため、早々に部屋を出た。  満員電車の中、講義の進行を頭の中でなぞり、会社へと急ぐ。保は無言で俺に付き合ってくれた。  職員室へ入ると、浜ちゃんがデスクから立ち上がり、駆け寄ってきた。 「おはようございます」 「うん。おはよう」 「白石先生も」 「ああ。おはよう」  俺の傍から離れようとしない浜ちゃんを見て、保はこちらに目配せをし、自分のデスクへと歩いて行った。  浜ちゃんは何を言うでもなく、俺と一緒にデスクへ戻った。  鞄から資料を出し、講義内容を確認する。 「先生、午前中の一時間目、小テストの監督、僕がすることになりました」 「え! そうなの? 俺は?」  まさかの自由時間!? 「先生は九月から始まる合格講座のガイダンスです」  仕事、ありますよね、そりゃぁ。  そっちの資料も用意しねぇといけないのか。  この予想外な展開。  どうするよ、俺……。 「ガイダンスの資料、作っておきましたよ」  浜ちゃん、神! 「ありがとう」 「お礼なんて。……僕、先生といると楽しいです。だから、今日、先生がここに来てくれたことの、お礼です」  泣きそうだよ、浜ちゃん。
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