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「浜ちゃん!」 「先生、声、大きいです」  浜ちゃんは俺達のところまで来ると、自分の腕に絡みついてきた小塚に引きつった。 「従兄弟なんです。すみません。うるさくして」 「それだけじゃないだろ。竜は俺の彼」  浜ちゃんが小塚の口を覆った。 「なんでも。なんでもありません」 「隠さなくても大丈夫だよ。小塚君から聴いているから。竜が浜ちゃんだとは思わなかったけど」  浜ちゃんは小塚の口から手を離し、俯いた。 「おかしいですよね。βとαじゃ、子どももできないのに」  αにはαの、ΩにはΩの、そして、βにはβの悩みがある……。 「俺はおかしいと思わないよ」  なぁ、とさっきから黙り込んでいる保に話をふる。 「ああ」  保さん、なんか、怒っていらっしゃる? 「ありがとうございます。ほら、カズ、お前はもう邪魔しない。行くぞ」  浜ちゃんが小塚を引き連れ、廊下を進んでいく。  俺は浜ちゃんを呼び止めた。 「ずっと、ありがとう。今度、部屋でご馳走するよ。うちの料理長、口うるさいけど、料理は美味しいから」  保の胸に手の甲をつける。 「なんで、俺?!」 「昨日、俺の料理、豪快だって笑ったろ。繊細なの、頼んだぜ」  浜ちゃん達は保の返事を待つように立ち止まっている。  肘で、保の腹を突っついた。 「昨日は迷惑をかけた。小塚君には話したいことがあるから、ぜひ二人で来てくれ」  なぜ、そう絡む……。 「ありがとうございます。楽しみしていますね」  浜ちゃんがにこやかに言ってくれたおかげで、場が凍らずにすんだ。  浜ちゃん達が階段をのぼっていったところで、俺は溜息をついた。 「保さぁ、感謝って字、書ける?」 「書ける」 「うん。うん。俺の言い方が悪かった。小塚君に突っかかんな。助けてくれたんだ。素直にありがとうって言え」 「悪いが、自分を英雄視するαは好きになれない」
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