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保、そんなんじゃ、人からやさしくしてもらったら、ありがとうって言おうって、子どもに教えられねぇぞ。
「若い奴を俺達同様に考える必要はないんじゃない?」
階下から聞こえた気怠げな声に心臓が跳ねた。
如月が階段をのぼってこちらへやってくる。
火に油!
「お前、何しに来た? 部外者は出てけ」
「それが客に対する態度か?」
客?
階下から足音がする。
「ひーちゃん、喧嘩はダメだよ」
肩掛け鞄をしたやっちゃんが階段をのぼりきり、如月の隣で息を整える。
保が顎を引いた。
「お久しぶりです」
微笑んだやっちゃんに、保は驚いたようだった。
小さく何度も頷き、久しぶり、と押し殺したような声で言った。
如月はやっちゃんにやさしい笑みを浮かべ、保はそんな如月に目を伏せて唇を伸ばした。
やっちゃんが俺を見る。
「僕達、奥村君の講義、受けることに決めました。今日はガイダンスのために来たんです」
僕……達?
如月も!
「じゃあ、僕達、行きますね」
通り過ぎるとき、やっちゃんの項にある歯の痕が目に飛び込んできて、胸が熱くなる。
「知り合いだったのか?」
「え? やっちゃん? うん」
「俺に同じことを聴かないってことは、夏川と俺が知り合いだって、知っていたな?」
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