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 こいつ、俺のこと、試した?  保は俯き、瞼を閉じると笑んだ。 「俺と夏川がどこで会ったか、聴いただろ?」  保の恐怖が伝わってくる。 「聴いた」 「そうか……」 「お前が自分の中のαと戦っていたこともな」  保の瞳が揺れ動く。 「あのさ、お前、俺に自分のこと信じろって言っていたけど、あれってさ、本当は保自身に言ったんじゃねぇの?」  もっと自分を信じろ、と俺は保の尻を叩いた。 「人に信じろって言っといて、保自身が自分を信じらんねぇとか、何様だって感じだからな」 「庸輔は、いつも、眩しいな」 「こそばゆいこと言うなよ」 「小さいときから、庸輔だけがくっきり見えていた。人はたくさんいるけど、俺にとっては庸輔が一番、鮮やかだった。だから、俺が俺じゃなくなりそうになったとき、頭の中で庸輔を探した」  保の表情がやわらかい。  俺の好きな顔だ。  保が息をつき、一度だけ頷いた。 「あいつらも前を向いてる。俺も後ろばかり見ていられないな……」 「まずは、ありがとうって言えるようになることだな」 「…………わかった。感情の整理をする」  じゃあ、またあとで、と保が講義室へ歩いて行く。  その背中に微笑みかけてやる。  俺だって同じだ。  泥だらけになって遊んだガキんとき、裏切られたと思った中学んとき、体も心も離れていたとき、就職して再会したとき、保の色だけがはっきりしていた。今だって。  俺、お前にずっと恋してんだな。  見本がなくても、俺にも恋ができた。きっと、お前も、お前の力で、過去と向き合えるさ。たとえ、前例がなかったとしても……。                                     
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