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神々しき天上界の神族……、麗しき囚われの姫。そして義理の息子との間の子を宿してしまった、罪深き王妃。セファニアのことを考えるたびに、ナシェルの体には灼熱の炎が奔る。愛の名の下に、その炎は拷問のようにナシェルの体を突き貫く。焼けた鉄串のように。
しかし同時にそれは、棘をふくんだ快楽。禁断のものと知りつつそれに身を委ねることは、神としての単調な毎日をうるおす、唯一といってよい危険な娯楽であった。
堕ちてゆくと判っていながら、彼はそれをとめるすべを知らぬ。ただ奈落の底を見つめて己の愚かさを嘲笑するのみ。一時の遊戯のために身を滅ぼすかと、ヴァニオンは何度も激しく彼を責めたけれども。
「身を滅ぼす……結構ではないか。死ぬる術をほかに知らぬ我が身だ……。この思いが罪というなら謹んで、裁きを受けよう。もっとも……」
ナシェルは呟く。
「もっとも、あれに私が裁けるかどうか知らんが……」
己を半身と呼び溺愛するあれが、果たして己を罰することができるのか……?
ふ、と自嘲するも、それは一瞬のこと。彼は考慮すべき今ひとつの問題を思い出し、眉を顰めた。
セフィの腹の子のことだ。
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