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扉が締め切られてしまうと、大きな居室の中は高貴な二人の神たち以外には誰も居なくなる。
ナシェルは部屋を横切って、大きな天蓋つきの寝台のほうに向かった。
四方に、真っ白な絹の幕が幾重にも襞を作って張り巡らされていて、中の様子を隠している。彼は、その中に向かって呼びかけた。
「起きておられますか、継母上」
返答はない。ナシェルはしかし、返答など待たずにいきなり天蓋を引き開けた。
「ナシェル……!」
非難の声を上げたのは、寝台の上に居た一人の少女。ナシェルは唇を歪めた。
「起きていらっしゃるなら、返事くらいしてくださればよいものを」
寝台の上に横たわったまま、上半身だけ起き上がって掛け布を引き寄せた少女は、その緑色の瞳に怒りの色を浮かべてナシェルを睨む。
「許しもなしに、無礼ではありませんか」
「寝顔を拝見したかったんですよ、美しい継母上の」
云いながら、ナシェルは寝台の端に腰掛けた。後ずさろうとする少女の腕を掴んで強引に引き寄せ、唇を重ねる。慇懃な口調とは裏腹の行いだった。
「やめて、」
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