第一部 血獄 3 王妃

3/7
3838人が本棚に入れています
本棚に追加
/941ページ
 顔を逸らして、少女は抗った。もがこうとするその肩を掴んで、強く寝台に押し付ける。逃げようとする少女が、冗談かと思うほど非力なのが可笑しい。そのまま倒れこみ、象牙のような首筋に接吻する。 「貴方に毎日会えないのは苦痛です。貴方が父上に毎晩こんな風にされているかと思うと、私の心は張り裂けんばかりだ。判りますか」 「ナシェル、やめて!」  少女は押し殺した声で叫んだ。少女といってもそれは外見だけのことだ。  セファニア……冥王の二度目の正妻。天上界の、命の女神。  ナシェルにとっては、継母に当たる。  真珠の肌に、若葉の輝きを放つ翠色の瞳。数千年を生きているとは思えない。  神はもっとも美しい時期になると成長を止める。ナシェルも外見の変化がなくなって数百年がたつ。セファニアは比較的早い時期に成長が止まったのだろう、ナシェルよりもはるかに年上だが、ずっと幼く見えるのだ。  唇を貪りながら、ナシェルは片方の手で、小さな命の入ったセフィの腹部にそっと触れてみた。  膨らみがだいぶ目立ち始めている。  舌をかまれて、ようやくナシェルは唇を離した。王妃は肩で息をしながら、蒼白になった顔に怒りの表情を浮かべている。ナシェルは唇についた血を拭った。 「……最近はひどく調子がすぐれないと伺っていましたが、元気じゃありませんか」 「ナシェル! どうして……」
/941ページ

最初のコメントを投稿しよう!