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継母が厳しい口調で非難する。ナシェルは笑い、体を離して寝台の端に座りなおした。
「遊びですよ。本気で噛み付くことないのに」
そして、眼の前にいる天上界の女神をじっと見つめた。セファニアはナシェルの舐めるような視線を拒んで、横を向く。そのほっそりした肢体を包むのは、白い夜着だった。敷布の上に広がる長い髪は金。アルカディアの神族の特徴だ。
セファニアは顔を背けたまま、少し咳き込んだ。具合が悪そうだが、背中に手をやろうとすれば、
「……何でもないわ」
と拒まれる。
セファニアは掛け布を引き寄せ口元を押さえた。秀麗な眉が顰められ、肩を震わせて咳き込んでいる。口に当てた白いシーツに、うっすらと血が滲むのが見えた。
「継母上……!」
ナシェルは凍りついた。ティアーナも……、彼を産んですぐ死んだ母も、この冥界の瘴気によって病み、消滅したのだ。同じく、血を吐いて。
「大丈夫よ、少し咳が出るだけ」
「血が滲んで……」
「大した量じゃないわ」
まさかここまで病が悪化していようとは。ナシェルは己の強引な行いを恥じ、悔いた。絶句した彼を宥めるように、セファニアは無理に表情を繕う。
「本当に、何でもないわ……。それより、どうして来たの。もう会わない方がいいと、あれほど……」
「判っています……ですがどうしても、耐え切れなかったのです」
セファニアはため息をつく。
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