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「生まれ変わる……。貴女の記憶を留めたまま?」
「記憶は……そうね、覚えていることも、思い出すことも、ひょっとしたらあるかもしれないわ……」
「セフィ、貴女が生まれ変わり、私の子になると……。私の血を受け継いで、この冥府でもう一度育つと……そういうことなのですね?」
セファニアは静かに頷き、微笑む。
「だから私を失ったと、セダルも貴方も、悲しむことはないの。ただ、この子を、慈しみ、大事に育てて欲しいだけ。この子は私自身も同然なのだから……」
俄かには信じがたい話だが、彼女ほどの上位の神であれば可能なのだろうか……。ナシェルは彼女の言葉を聞き漏らすまいと、そのか細い声に耳を澄ませ、やがて彼女の落ち着いた口調に己も平静を取り戻した。
「継母上。そんなことがもし可能なら……、もう一度やり直したい。
新しく生まれ変わったら、今度こそ……私を愛してくれますか」
「……今でも愛しているのよ、世辞ではなく」
セファニアの愛とはきっと己の求める愛とは異質のものだろうと、心の底では判っていた。
だが今は、その言葉を信じ自惚れよう……。
「……長居するとまた侍女たちが騒ぎ出しかねません、今日はこれにてお暇させていただきます」
ナシェルはもっと寄り添っていたい気持ちを堪え、立ち上がった。
これ以上ここにいてはだめだ……。自分を、抑え切れなくなる。
「継母上、どうかご自愛くださいますよう」
突然立ち上がったナシェルを、王妃は怪訝そうに見上げる。
ナシェルは瞳に現れてしまいそうな気持ちを隠すため、踵を返した。
「侍女を呼び戻して参ります」
セファニアが無言で、ただじっと己を見詰めてくる気配を背に感じる。
呼び止めないでくれ。振り返ってしまえば、私は何をするか分からない……。
セファニアはしばらく何を云うべきか考えるように押し黙っていたが、やがて一言、
「お元気で……」
と呟いた。永遠の別れの言葉のように重く。
セファニアはもう長くはない。冥王の眼を盗んで会う機会など、もう二度とないかもしれない。
振り返ってもう一度口付けしたい衝動に駆られる。それを抑え、ナシェルは後ろ髪引かれながら寝室を後にする。
彼を引き止める言葉は、とうとうかからなかった。
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