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すると神の骸は死したのち、塵となって消えるのか? 目の前にいる王も、アシュレイドの仕える王子も。魂は創世神のいる上界に転位すると聞くが、躯を葬ることもないとは、上位種族にあるまじき哀れな死にざまではなかろうか……。
唐突にアシュレイドは、安堵のあまり忘れかけていた重大な疑問を、思い起こした。
(殿下は!? 殿下はどうされたのだ?)
……だが目の前にいる父神の湛える怒気を見よ。神々を瞬殺してなお躯内に収めおけぬ憤懣を、未だ殺気の黒い炎として肩から揺らめきたたせているその姿を。
(殿下はいずこにおわすか!?)
アシュレイドは狼狽しながらも、冥王の憤激の気に呑まれて舌は痺れたように痙攣し、その重大な恐ろしい問いかけをどうしても発することができなかった。
起き上がり、ぬかづきはじめた兵らの姿さえ一顧だにせず、王は闇嶺の背を降り、近くに居た騎士に手綱を預けた。崩れかけた石垣の傍まで歩み寄り、静かなる憤怒をその背に宿したまま、宙に両手を差し伸べる。
とたん、宙空で静止していた死と闇の精霊たちが帯のように次々に王の手許を訪れ、手の甲に唇を寄せ挨拶しては散らばっていった。数十億という数の精霊が一気に飛翔するさまを見るのは、アシュレイドもはじめてだった。
戦を終え冥界じゅうに飛び去っていく精霊たちが、しかし哭いているように、アシュレイドには見えた。虚しい戦で落とした命のあまりの多さを嘆いているのかと思ったが、そうではなかった。
精霊たちは事実、慟泣していた。仕えるべき神の片割れを失ったことを。
彼らは……残った死の精らは口々に王に問いかけていた。アシュレイドが抱くのと同じ問いかけを、より神に親しい精霊らが代弁していた。
あるじよ。……死の影の王はいずこに! 我らが愛しき御子神……あるじの半身は、いずこに?
それに沈黙で応ずる冥王の、背中が発する嵐のような悲哀を、アシュレイドは感じた。心臓が跳ねた。
戦場を覆い尽くしていた怒りが去り、精霊たちが風に載せて運んできたのは、重々しい嘆きの気であった。
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