第3章 #2

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そう言って、母は申し訳なさそうに目を細めた。 「全然、大丈夫やで。気にせんといて」 幼い頃から、両親の仕事が大変なことは十分理解しているつもりだ。 忙しい日々の中、たくさんの愛情をもらってきた自覚もある。 「お父さん、働き過ぎて倒れへんように、しっかり見ててあげてな」 「そうやな」 母はそう言いながら、お玉を使い、漆塗りのお椀に汁物を注ぐ。 懐かしい匂いがした。 「いい匂い」 「そうやろ」 食卓に並べられた朝食は、ご飯に味噌汁、焼き魚に京野菜の炊き合わせ。 小皿の上には、お漬物。 高校生の時と変わらない、いつものメニューだった。 「いただきます」 私は手を合わせてから、お味噌汁をすすった。 いつもの優しい味がする。
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