第3章 #2

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あっさりしただしを含んだ京茄子、蕗の薹、京人参。これらも格別に美味しかった。 母はリビングに隣接する畳部屋で、着物の着付けをし直している。私は、そんな母に向けて言った。 「お母さん、美味しいわ」 「そやろ? 作り方教えてあげるし、帰ったら奏くんにも作ってあげ」 「うん。奏も喜ぶと思う」 私の答えを聞き、ニコリと微笑んでから、時計を見た母。つられるようにそちらを見ると、そろそろ旅館へ戻る時間だった。 「そういえば、灯里、昨日旅館に来たんやって」 「酒井さんから聞いた?」 「え? 酒井さん知ってたん? 酒井さんからは何も聞いてへんで。スタッフの子が、灯里によく似た子を玄関前で見たらしくて、教えてくれたんや。なんか用事があったんか?」 「ううん。何にもないで。ちょっと見にいっただけ」 「そうか」
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