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そこまで思った瞬間、私は先ほど旅館の裏で見つけた小さな提灯のことを思い出していた。
紫陽花色の手作り提灯の裏側に浮かび上がっていた、白い文字は――……。
「コウ」
息を吐くように、夏の夜の闇に向かって呟いていた。
どんな些細な声さえも届いてしまいそうな静かな夏の夜なのに、その声は誰にも届かず、夕方の時と同様、その声は私の元へ帰ってくるだけだった。
返事がないのはわかっていたはずなのに。
この場所なら何かわかるかもしれない。
思い出せるかもしれない。
なぜかそう思ってしまった私は、知らず知らずため息をついていた。
その時、中央の境内の斜め前にある社務所の電気がパチリと消えた。
神社を灯す明かりは、三列に並ぶ提灯と、ところどころに立っている街灯の灯りだけになってしまった。
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