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「鬼! 悪魔!」
「うっせー。灯里が暴走するからやろ!」
拓斗と言い合いながら簡単な手当てを終えて、わたしは立ち上がる。
立ち上がれないほど痛いと思っていたけれど、時間が経ってその痛みにも慣れてきたようだった。
小さな頃から何度も転んでいたせいで、わたしの膝小僧は丈夫になっていたらしい。
右膝だけ擦れてしまっていたので、絆創膏の上からじんわりと赤色が滲んではいるけれど、そこ以外の血は止まるのも早かった。
彼は、申し訳なさそうな目でわたしを見ていた。
『ぶつかってくれたらよかったのに』
目を細めた彼が、そう言った気がした。
わたしは彼を見上げて柔らかく微笑み返してから、言った。
「あなたは、大丈夫ですか?」
「俺? 俺は平気。どこも怪我はしてないよ」
「よかった」
心の底から声が漏れた。
「え?」
「あなたに怪我がなくて、よかった」
「君のおかげだよ」
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