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動揺したわたしはキュッと結んでいた唇を無理やり開けて、焦るように話し出した。
「きょ、きょ、今日は提灯の取り付けまで、ありがとっ。バイト代はずんでもらわなくちゃねっ」
早口だった。
先ほどからずっと聞こえている心音と同様、体に流れる血が、鼓動が、どんどん速くなっているのが自分でもわかっていた。
「いや、バイト代はいいよ」
彼に流れる時間は、変わらずゆっくりだった。
それとも、あえて速度を落としてくれているのかな。
わたしを自分のペースへ連れて行くために。
「どうして?」
するりと出た声が、先ほどよりもゆったりと耳に響く。
あぁ、わたし、何かを感じている。
コウを取り巻く空気が、いつもよりもずっと重いことに気づいている。
わずかな間を置いて、ためらいがちに彼が話し出した。
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