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わたしは何も言えなくて、俯いた。
もうコウに会えない。コウが東京に帰っちゃう……。
「灯里」
ふわりと、彼が私の名を呼ぶ。
羽のついた言葉のように自分の名前を呼ばれると、どうしてか、わたしは目を上げてしまう。
目が合うと、彼は今までで一番の優しい笑みを添えて言ってくれた。
「落ち着いたら、また来るから」
「落ち着くって、……いつ?」
「……次の青い月の夜には、またここに来る」
「青い月の日って、すぐ来るの?」
「あぁ。7月の終わりに、もう一度やってくる」
「……うん。わかった」
私は頷くしかなかった。
「約束」
そう言って、コウは小指を差し出した。長くて細い、わたしの人差し指のような彼の小指に、わたしの小指が絡まる。
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