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視線を合わせない奏の優しさが好きだ。
私は、奏のことが誰よりも大切だ。
これほど奏のことが好きなのに、これからの人生を共に生きていくのは奏しかないと思っているのに、私の心は、どこかでコウを探していた。
この気持ちは、何なのだろう。
奏と過ごす時間の中で、どうして私はコウを重ねて見ているのだろう。
「俺さ」
黙っている私の変わりに、奏がゆっくり話し出した。
「心配だったんだ……。灯里が京都で泣いてないかって」
「え……」
「出会った頃、灯里、言っただろ? 東京へ来た理由を。京都にいると、訳もなく涙が溢れてくる。だから私は、東京へ来ることを選んだって」
そんなこと……。
「言ったっけ?」
「あぁ。言ったよ。俺と出会った時のこと、覚えてない?」
「ごめん……記憶が曖昧で」
「じゃあ、二人の出会いも、涙の話も、覚えてない?」
「うん……ごめん」
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