第5章ー2 #2

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私が、行きたい場所と聞かれ、ふと思い浮かべたのは、この場所だった。 広大な境内と巨大な伽藍に圧倒されながらも、私は本堂と開山堂を結ぶ屋根付き木造の長い橋の方へ歩いてきた。 昔、お父さんと一緒にもみじを見た場所だ。 よく見ると、境内には小川が流れていて渓谷になっていた。 その渓谷を貫くようにかかっているのが、この通天橋だ。 天にも通ずる橋、という意味を持つ高くそびえる通天橋の上を歩くと、まるで空中を歩いているような気分になる。 不思議な気分の中、目映いもみじに吸い寄せられるように、奏が通天橋の中央で立ち止まった。 展望台のように張り出た空間に立ち、眼下のもみじを見る。 2000本のもみじの木が、天辺から見下ろせた。 渓谷全体が青もみじで染まっている。青もみじと青空がひとつに溶け入りそうだった。
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