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気づけば、無意識にそう呟いてしまっていた。
自分の声に驚いていた。彼の瞳は、哀愁に揺れている。
どれだけ自分の気持ちに正直なんだ。正直すぎて、コウを困惑させている。
「ごめん」
そう言ったのはわたしだった。
「勝手に好きになって、ごめん」
夜は、二人の表情を見せなかった。
ただ、重苦しい空気だけが流れていて、わたしは謝るしかなかった。
その時、背中に大きな手の感触。ぐっと引き寄せられたかと思ったら、目の前にコウの喉仏が見えた。わたしは彼に抱きしめられている。
鼓動がうるさい。口から心臓が出てきそうなくらい驚いている。
倒れそうになったわけではない、転びそうになったわけでもないのに、彼はわたしを引き寄せて、自分の腕の中に包み込んでくれている。
そのことがとてつもなく嬉しくて、瞼が熱くなった。
彼の体温を近くで感じる。手を動かすことも、これ以上引っ付くことも、わたしにできないけれど、コウに抱きしめられている現実だけが、幸せだった。
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