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「うーん。いい子、いい子って」
「なんだよ、それ」
「お姉さんだからかな」
「同い年だろ」
「そうでした」
記憶にあるやり取りをして。
僕は笑ってから、そっと目を閉じた。
幼い頃の記憶が蘇ってくる。
『圭一はもう一年生なんだから、お兄ちゃんなんだから、しっかり待てるよね?
お母さん、仕事が忙しくて帰ってこれないから、児童館から帰ったら鍵をあけて、電気をつけて、家で待ってて。
茜が泣いたらお菓子をやってね。お兄ちゃんだからできるでしょ』
母の期待に答えたい僕の答えは、いつもイエスだった。
ノーと言いたい、でも言えない。
僕の中に眠る小さなトラウマ。
いや、トラウマというほどのことでもないか。
頼られるのが嬉しかったのも、確かだったから。
それでも、時々SOSを出したかったこともあった。
それは、誰にも言わなかったけれど。
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