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「渡月橋の名前の由来って、京都では、有名な話なの?」
と、僕は聞いた。
「どうなんだろう? 私のお母さんは月と星が大好きだったから、たまたま知っていたのかもしれない」
「そっか」
大きな満月を頭上に掲げる渡月橋は、今日も控えめに、その場所に佇んでいる。
主役は橋に立つあなただよ
そう言ってくれているかのような、慎ましくも美しい景観と、それらを守り続けている嵐山の町を僕はまた好きになった。
「今日は、特別綺麗だね」
夜空を見上げて、沙紀が言う。
「うん。月が青いからかな」
僕の声にコクリと頷いた沙紀の目にもう涙はない。
「青い満月の日に、渡月橋から月を見れるなんて、やっぱり今日、来てよかった」
独り言のように呟いた沙紀の言葉を、僕はきっと忘れない。
「……うん」
僕も、同じことを思っているからだ。
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