6/14
前へ
/35ページ
次へ
*** それから僕たちは渡月橋を渡りきり、他愛もない話をしながら、嵐山街道を北へと歩くと、あっという間に森に着いた。 僕たちは山道を歩き、生い茂る森を抜け、その奥にある青い泉へと向かった。 すっかり空は晴れ上がり、星も瞬くほど美しいというのに、山道は湿り気を帯びていた。 きっと、泉の淵の土もまだぬかるんでいるのだろう。 木の上にある透明の傘を取りに行こうとする沙紀を、僕は引き留めて。 「俺が、行ってくるよ」 「でも」 「いいから」 すでに、僕のスニーカーは汚れているから、彼女の靴まで汚したくない。 僕は、泉に向かった。 紙が残っているのか、いないのか、内心ドキドキしていた。 青い月の光が一番届く場所に来た。 夜が始まって間もない頃、僕はこの場所に、傘と手紙を置いたのだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加