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それから僕たちは渡月橋を渡りきり、他愛もない話をしながら、嵐山街道を北へと歩くと、あっという間に森に着いた。
僕たちは山道を歩き、生い茂る森を抜け、その奥にある青い泉へと向かった。
すっかり空は晴れ上がり、星も瞬くほど美しいというのに、山道は湿り気を帯びていた。
きっと、泉の淵の土もまだぬかるんでいるのだろう。
木の上にある透明の傘を取りに行こうとする沙紀を、僕は引き留めて。
「俺が、行ってくるよ」
「でも」
「いいから」
すでに、僕のスニーカーは汚れているから、彼女の靴まで汚したくない。
僕は、泉に向かった。
紙が残っているのか、いないのか、内心ドキドキしていた。
青い月の光が一番届く場所に来た。
夜が始まって間もない頃、僕はこの場所に、傘と手紙を置いたのだ。
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