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「私、日向寮に来る前は、お母さんと二人きりで暮らしてたの」
「……うん」
「私の家、物心ついた時から、シングルマザーでね。お母さん、私のこと一生懸命育ててくれた。昼も夜も働いて、でも貧しくて。だから、休みの日も働いて。
最後には、お母さん、体を壊して、病気になって……私が10歳のときに、亡くなった……」
かける言葉が見つからない。
僕は黙って聞いていた。
「頼る人がいなかった私は、日向寮に来ることになった。慣れるまで、少し時間がかかったけど、日向寮は温かくて、ずっと欲しかった兄弟もいて。ご飯も美味しいし、頼れる先生もいて。すごく安心した。
私、ずっと……一人だったから」
「……うん」
「お母さんは、病院でお別れする前に私の手を握って、
『ずっと見てるから』って言ってくれた。
『どこで?』って聞いたら、『沙紀の大好きなお月様で、ウサギと一緒に餅つきしながら、沙紀のことずっと見てる』って。
だから、月に一番近い施設に来られて、私すごく幸せだった。
……それなのに――」
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