第4章 #2

8/28
前へ
/35ページ
次へ
僕は、彼女の言葉を聞きながら、昨日の婆ちゃんの言葉を思い出していた。 『日向寮ってさ……、どんなところ? そこにいる子どもたちは、可哀想な子どもなの?』 思ってもなかった言葉が、声になった。 沙紀を見て、そんなふうに想ったことはないのに。 『日向寮って聞くと、表情の変わる人が多いから』 初めて日向寮に行った日、沙紀から聞いた言葉が頭の片隅に残っていて、僕にそう思わせたのかもしれない。 『みんなそう言うね。あそこにいるのは、親のいない可哀想な子どもだって。問題が起きやすくて、非行に走りやすい。そんな先入観で、施設の子どもたちを見てる』 『……違うの?』 と僕は聞いた。 自分の意見ではない。 わからなかったのだ。 僕は真実を知らない。 『違うよ』 婆ちゃんは、はっきりと言った。 『日向寮の子は、可哀想な子なんかじゃない』 『……』 『可哀想なのは、大人だ』 『大人?』 『そうだ。可愛い子どもを育てられない、大人が可哀想なんだ』
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加