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『デート、どうだった?』
1か月前、そう送られてきたメールに返事ができなかった僕を責めもせず、それ以上聞き出すこともせず、いつもと様子の違う僕を買い物に連れ出してくれたのは、きっと裕也の優しさだろう。
それなのに、僕はみんなの前で失恋した事実を告げてしまった。
裕也は、そんなことしたくなかったのだと思う。
体はでかくて動きは荒いけど、優しい裕也。
桜さんも、裕也のそんなところに惚れたのだろう。
「ふられたから、新しい恋だなんて……お前には、違うよな」
「……うん」
朱色の空が、薄い紫色に変わり始めていた。
菫色をした世界の中でも、僕が思い出すのは、やっぱり沙紀だ。
沙紀と離れれば、この想いなんて、あっさりと消えてなくなると思っていた。
小さな箱に閉じ込めた僕の恋心は、日も当たらず、水ももらわず、そのまま萎れていくだけだろう。
そう思っていたのに――……。
僕は、どこへ行っても、何をしていても、彼女を思い出すのだ。
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