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僕は記憶を頼りに、重なる木々をかき分けて泉へと近づいた。
森の色が違う、と思った。
1か月前に見た、あれほど美しかった蒼の光が十分に届いていない。
夜空を見上げると、白い雲のようなベールが薄らと満月にかかっている。
きっと、このベールにすべて覆われたら、青い光は地上に届かなくなり、僕はもう二度と彼女に会うことはできないのだ。
「くそっ! どこだっ!」
僕は大声を出して、泉を探した。
道とは呼べない道に伸びている枝たちが、僕の手や足を傷つけていた。
僕はそんな痛みなど気にせず、木々をかき分け、森の中へ進んだ。
早く沙紀の元へ行きたかった。
さんざん歩き回っているのに、過去への入り口が見つけられない。
この森へ帰ってくれば、一度目のブルームーンの時と同様に、自然と過去へ入り込んでいけるのだと思っていたのに、
僕は、今、現在を生きてる。
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