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僕は水中で彼女を受け止め、地上へと泳いでいく。
彼女は泉の岸に上がると、プハッと息をしてから、ケホケホとむせた。
僕は彼女の脇に手を入れて体を持ち上げて、そっと、泉にかかる木製の板の上に座らせた。
泉の中に大きな岩があった。
僕はそれを足場して、少女と向き合うかたちになった。
目の前にいる少女は、沙紀だった。
見間違えるはずがない。
17歳の沙紀よりもずっと小さな小学生の沙紀は、真っ赤な目をして、泣いていた。
肩を震わせ、体を小刻みに震わせながら、小さな沙紀は、夜空を見上げる。
11歳の沙紀は、月にいるお母さんのところへ行きたかったのだ。
僕は、そんな彼女の華奢な肩に手を置いて、
「沙紀」
彼女の名前を読んだ。
小さな彼女が目を上げて、僕を見る。
「私のこと……知ってるの?」
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