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音楽祭のポスターのキャッチコピーは『ワクワクが鳴り止まない』。
そのワクワク感をどう表現するか。
平面のポスターから音が溢れ出すような。だったら色数は逆に抑えた方がいい? アイデアがどんどん浮かんでくる。
智くんが企画したこの音楽祭を成功させたい。智くんの力になりたい。
そんな思いで胸をいっぱいにした私は会議室を後にした。
「下まで送る。」
智くんはそう言うと、当然のように一緒にエレベーターに乗り込んできた。
「え。智く……」
抱き寄せられてキスで口を塞がれた。
それだけで馴らされた身体は簡単に火照り出す。
でも、3階から1階に着くのなんて、あっという間だった。
「さっきはビックリした。妊娠したのかと思って。」
「ごめん。言い方が紛らわしかったね。」
「いや。……じゃあ、気を付けて。」
2人でエレベーターを降りると、智くんはビルの入り口で私を見送ってくれた。
後ろを振り返らずに、青になった交差点を渡る。
きっと智くんは私の後ろ姿をまだ見つめているだろうなと思いながら。
智くんは結婚式の夜から避妊をしなくなった。
だから、いつ妊娠してもおかしくはない。
でも、私たちの間で子どもの話を口にすることはなかった。
きっと智くんは昔、私が話したことを憶えている。
私が子ども嫌いだと言ったこと。自分の子どもを愛せるか自信がないと言ったことを。
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