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「あっ、明石さん!」
「はい。」
2人同時に返事して、思わず顔を見合わせた。
イベント企画会社ビッグレインボーの応接室に通された私は妙に緊張しているけど、目の前の智くんも案外緊張しているのかも。仕事で顔を合わせるのは久しぶりだから。
呼びかけた成瀬さんも苦笑いを浮かべながら、すみませんと呟いた。
「美結さんの方です。コーヒーで大丈夫ですか? えっと、その……妊娠とか。」
「え。だ、大丈夫です! あ、じゃなくて、すみません。お茶をいただけますか?」
苦手なコーヒーも打ち合わせでは我慢しながら飲むのに、こんな風に甘えてしまったのは相手がよく知っている成瀬さんだからだ。
「え?! 美結、大丈夫じゃないのか? それって!」
ガタンとイスを倒して勢いよく立ち上がった智くんは、完全に誤解している。
「違う! 妊娠してないから。……たぶん。」
恥ずかしくて俯いた私の耳に、『なんだ』という智くんのがっかりしたような呟きが聞こえて来た。
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