序章

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序章

 その瞬間、その場は彼の支配下に置かれて、私はただのオーディエンスに成り果てた。   麻縄がしゃっ、しゅるっ、と擦れる音を立てながら彼女の躰を彩っていく。  他を寄せ付けない真剣な表情で彼女を縛っていく彼は、彼女のことを本当に愛しているように見えた。  他を誘惑する恍惚とした表情を浮かべた彼女は、彼のことを本当に信じているように見えた。  解放された悦楽。  洗練された背徳。  計算された緊張。  どれもが彼らのためだけにあった。  絵師が施すサインのように、最後の仕上げに彼は彼女にキスをする。そうして彼女は、世界で一番綺麗な女性になった。
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