4-2 月の光のもとで

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 母を亡くした時の悲しみ、父の(なげ)きを今でも鮮明に思い出す。  そして、忘れてはならない遠い昔の記憶があるような感覚に胸がなぜか軋む。切ない、苦しい、悲しいと胸が訴える。  込み上げてくる切なさに目を閉じると、深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせた。そして、部屋の前で立ち止まると、重厚な扉を眺めた。  思わずふらふらとここまで来たが、レンは大丈夫だといい聞かせると同時に、『もし』を考えると足が震えそうだ。  そして、彼らが特殊だということを考えると、この先に何があるのかと未知なるものの恐怖が、ドアノブに手をかけることを躊躇(ためら)わせた。  だけど、何も知らずに待っているだけよりは、いい。  そう思い、勇気を出してそっとドアノブに手をかけ(うかが)うように部屋を覗き、そこで美柚は魅せられたように静止した。
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