「おかず」が気にいらない!

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 夕食時。 テーブルの上にある、一皿だけの「おかず」をしばらく見てから・・・無精ひげの目立つ中年男は、低い声で妻に言った。 「オイ」 「なによ?」  どこか殺気を含んだ声で、TVを見ていた女ーー妻が振り向く。こちらも実年齢は夫と同じくらいかもしれないが・・・それ以上に、老け込んでいる印象だ。  眼輪筋というのだろうか。血走った眼のまわりが、ぴくぴく、小刻みに動いている。 「なんだよ、コレ」 「見ての通りのモノよ。何か、文句あるの?」 「ある」  男ーー夫の眼も、妻のそれに勝るとも劣らず血走っている。 「なんで煮魚が」 「煮魚、きらいだった?」 「ちがう! なんで煮魚がパクパク、口を開け閉めしているんだ? ギョロギョロ、目玉を動かしてこっちをにらみつけるんだ? ええ?」 「十分、煮込んだし。味もしみているわよ。味見したんだから」 「そういう問題じゃあ、ないだろ!」  夫は力まかせにテーブルの上を叩いた。並んでいる、本当に僅かな食器類やハシ立て等が、イヤな音をたてる。 「しかたないじゃない。もう、そういうのしか、いないんだから!」 「だからって、フツ―、煮魚にするか? 食卓に出すか?」  夫は椅子から立ち上がった。妻も、だ。夫婦の間に殺気が満ち満ちる。 「・・・わかってるでしょ? 保存食、限界なのよ」 「地下室に、まだ何か残ってるだろうが」 「飲料水の浄化剤や、その魚ーー『アレ』用の、中和剤ならね。食べてみる? よければだけど」 「・・・・・・」  夫はしばらく眼をらんらんと光らせていたが、とうとつに椅子に座りこんだ。 「クソ。とうとう、ここまで来たか・・・」 「ちがうわよ。とっくに御終いなのを。ここまで引き延ばしたんじゃない。それでーー次、どうするのよ?」 「次?」 「順番で言うなら、アンタの番だから。その魚も、保管庫で動いてるのも、私が獲ってきたんだからね。行くなら、『服』と『装備』、点検しておきなさいよ。まあ、一週間後くらいかしら」 「・・・・・・」 「デカいのなら、一月くらいもつと思うんだけど。でも、アンタ、中和しても食べる勇気、ないわよね? まあ、こっちもイヤだけれど。リスクも大きいし」  夫は、力のなくなった眼でTV--いや、モニターを見た。  そこには、番組ではなく『外』の光景が映し出されている。  無数に、何の指向性もなく、うろついている人間たち。
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