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***** 河原に立つと河上から流れて来る血生臭ささにぐっと息を飲んだ。 見上げれば秋の高い空に漆黒の鴉が二羽舞っていた。 夫婦(めおと)なのだろうか? 鴉はつがいで動くと言うから、そうに違いないと男は思った。 そう思っている最中、匂いに釣られたのだろうあちらかもこちらからも鴉が森から姿を現した。 木々の色は山吹に、そして紅葉色にしっかりと染まっている。 美しい光景に、河原に佇む美しい女房。 手が腕が濃紅になっていて、足元には小さな躯が横たわっていた。 いつからだろうか。 恐ろしいほどの生臭さを女房が放つようになったのは。 いつ頃からだろうか、女房が子を持てぬ事を憂う事がなくなったのは。 疑問は疑惑になり、何度も跡をつけた日々。 見なくても分かっていたような気がする。 しかし、見ないと心のどこかで信じようとしてしまうのも事実。 目の前で着物を脱ぎ棄て、川へと浸かっていく女房を暫く木々に身を潜めて見つめていた。 楽し気な表情で子供の穢れない血液を洗い流していく。 まるで水浴びをする鳥のように無邪気で、男は空恐ろしくなる。 罪悪感などないのだ。 込み上げてきたのは大きな悲しみだった。
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