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男は日が昇り始めた街を抜けて、鴉たちが宴を開く河原まで赴いていた。 朝の清々しい空気があの場所に近寄れば近寄るほど禍々しい物へと変わる。 手にはだらりとあの腰紐が下がっていた。 夫婦になった時、なにがあっても一緒に居ようと心に刻んだのだ。 女房の罪は男の罪でもあると思った。 悩みが狂気に変わってしまうことを止めてやれなかった。 男の手によって先に旅立った女房を追う。 登り易そうな木を見つけると、軽々とよじ登って自分の背丈より高い場所まで上がり、太い幹に腰紐をまずは括りつける。 そして自分の首にもその腰紐を回した。 男には一瞬の躊躇もなかった。 罪を知ってから、迷いはなかった。 ずさっと大きな物音で宴を開いていた鴉たちが驚いて一斉に飛び立つ。 鴉達が飛んでいった朝焼けの空。 山間から河原を照らす太陽が上がってくる。 男もまた高い空へと飛び立った。 双宿双飛(そうしゅくそうひ)、夫婦なのだからと。 おわり
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