私語と死後

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 ここで不意に、根本的な疑問が浮かんだ。 「そう言えば、私は何が原因で死んだんだ?」  彼女は私の方に目配せすると、入り口から見て突き当りの壁の方へ歩み寄った。 「こちらになります」  彼女の指さす方を見ると、『死因究明』という札があり、その上を見ると『一万九千八百日』という値札が…  あの世にもリーズナブルに見せようとする値段の付け方があるのかと苦笑してしまったが、すぐに彼女の方に向き直った。 「これは、流石にぼったくりじゃないのか」  少し大声になった(気がする)のだが、彼女は涼しげな顔でこう言った。 「ぼったくりという概念はここにはありません。そもそもあなたの出生の日が変わったところで、私には何の得もありませんから」  それもそうか。 「では、何のためにこんな店を」 「ああ、そこもまだ説明してませんでしたね」  そこで彼女の顔がまた変わった。これは私が小学校に入学して最初に担任になった先生の顔にそっくりだ。  ここでの私は、足し算さえ知らない子供のようなものって事か。 「ここは店などというものではないんです」 「店じゃないって、どう見たってここは現代のコンビニそのものの様にしか見えないんだが」 「それも、あなたのイメージなんですよ」 「私の…イメージ?」  生前、私はマンション経営で富を得ていた。その後、その資産を投げ打って全国にコンビニ展開したのだったが、志半ばで死んでしまった。  これは思い残した私の気持ちを反映しているという事なのか。 「ここもまた、来る人によって姿を変えます。ある者は故郷の藁ぶき屋根の実家に見えたり、またある者には花びらの舞う桜の木の下に見えたり」 「ある者はって、他には客・・・いや店じゃないんだったな、来訪者がいないようだが」 「その通りです。ここに来るものなど極めて稀ですから」  そう言って優しい目で見つめる彼女の顔がまた変わった。それはまるで、私が想像しうる孤高の、美しい女神のように見えた。 「あなたの前世における善行が、自然とここへと導いたのですよ」
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