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回想
コンビニ展開すると言った私に、会社の経営陣も家族も反対した。
その目的が利益のためじゃなかったからだ。
いつものようにTVのニュースを見ていると、その日は特に重大な事件もなかったのか、政治家の支持率やパンダの成長具合の様な他愛のない報道の後、ある特集が放送された。
『国籍を持たない子供たち』と題されたその特集に、私は目を疑った。
表題から、どこの国の話だろうと思っていたのだが、それはわが国、日本の事だった。
アナウンサーと解説者の声が機械的に聞こえたのは気のせいだろうか。
「つまり、出生届も出されずに、人目に付かないように育てられた子供たちが、大人になってその事実を知り、車の免許はおろか、通帳さえも作れないという事ですね」
「いえ、それ以前に、彼らはこの世にいない事になっているんです。ですから…」
後の言葉は良く聞こえなかった。めまいを覚えたからだ。
と、同時に彼らの事を案じた。
住まいはどうしているのか。仕事は。
何か自分に出来ることはないのか。
おそらく、いきなりTV局にアポを取ろうとしても、撥ねつけられるだろう。
それでも、その子たちを救いたいと思った。
偽善と言われてもいい。
私が彼らを雇おう。そして住まいも提供しよう。
無国籍な彼らのネットワークが出来たら、国に彼らが国籍取得を申請出来るよう働きかけよう。
その一環として、始めに私が提案したのが、このコンビニ展開だった。
全国各地にマンションを建て、その一階に自社のコンビニを展開する。
そこで雇うのは、国籍を持たぬ者達。
二階の部屋は全て彼らに無償提供し、給与は私の給与から分配する。
そのためには、私の年収を極限まで増額してもらう必要があった。
役員たちが首を縦に振らない理由もそこにあった。
だが、周りの全てに反対されながらも、私は強行採決した。
必要な建物を建築しながら、TV局に打診もした。
知りうる彼らの連絡先を聞き出すためだった。
私の計画を伝えると、TV局の人はまず本人に確認してみますと言ってくれた。
しばらくすると、私の元に何件か問い合わせがあった。
計画は順調に進み、都内に3棟目を建てている矢先、私は命を落としたのだ。
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