妻の死

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妻の死

 それからの日々は、店内を見て回る日々だった。  面白い札を見つけては、説明文を読み、分からない事は彼女に聞くという事の繰り返しだった。 「奥さん、亡くなったよ」 『職業』という札を見つけ、来世の職も選べるのかと裏を見ようとした矢先、カウンターの方から彼女の声がした。  私自身すでに死んでいるというのに、その言葉に一瞬悲しさを覚えた。  だが、悲しんでる場合じゃない。 「で、妻はいつ、どこに生まれ変わるんだ?性別は?」  この際、妻が男に生まれ変わるのなら、私は女でもいいと思った。 「奥さんが生まれ変わるのは…」  その後に続く言葉に、私の頭は真っ白になった。なぜ… 「一万年後です」  その言葉は無慈悲に私の魂に響いた。 「ど、どうして」 「一度地獄に落ちて、それから再び人に生まれ変わるという事です。残念ですが」 「地獄…妻が一体何をしたって…」 「実は、あなたの死の原因は、奥さんによる服毒死でした。私も奥さんが亡くなるまでは知らなかったのですが」  目の前が真っ暗になった。真っ白になったり真っ黒になったり、私も忙しいななどど言う余裕が出来たのは、ずっと後の事だったが。 「どうやら、死因が解らない程度に、少しずつ盛られていたようです」  何故、と一瞬は思ったが、すぐに思い当たった。  あの計画を遂行するにあたり、それまでの生活水準を社長になる前のそれ以下にまで落とすことになったのだから。  子供を大学にやるお金も無くなり、中退させた事を何よりも怒っていた。 「そうですね。奥さんは何より子供の事を思っていたようです」 「では、妻は私の事を恨んでいたのか…」 「いえ、最後まであなたの事を愛していたようですよ。だから彼女はあなたの死後、役員全てを説得し、全員から少しずつ出し合って、最後まであなたの計画を実行していました」  そうだった。元々妻はそうするように私を説得していたのだ。だが、私の我儘に部下たちを付き合わせる訳にはいかないと突っぱねたのだ。 「実はあの時、私もこっそり下界を覗いたのですが、奥さんは悔いていました。あなたの写真を見る度に、何度も何度も泣いていましたよ。その姿を見ているので、私もまさかと思ったのですが」
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