side a  千晴

2/2
前へ
/14ページ
次へ
「ほら、もうじじばばのとこに行くから」 花畑で遊ぶ我が子を後ろから抱き抱え車に乗せた。 チャイルドシートのベルトをカチャリ。 「じゃあ、出発するよ」 運転席から夫がこちらを振り返った。 早々に引退した父は、郊外に自分でデザインした家を建て、母と二人今まで離れていた時間を埋めるように仲良く暮らしていた。 人の結婚式の途中で、まさかプロポーズするか? それでもし断られたら、私の徐々に二人をくっつけてという計画がパア。 ま、終わりよければ、なんだけどね。 とにかく遅くに漸く夫婦になった二人は今ラブラブだ。 それにしても、あのインタビューで彼を紹介してくれた父の友人でもある、夫の父には感謝しきれない。 「いやあ、両家の顔合わせの時に何だか見たことがある顔だなって思ってたんだよ。あいつの顔見てああって思ったんだ。お互い未だに独身と知ってるのは僕しかいないから、とにかく君にだけでも会わせたくてさ。面倒臭がるあいつにこのインタビューを受けなきゃ一生後悔するぞって脅かして。で、後は天に任せようってさ」 言わば恋のキューピットだ。52歳のおじさんだけど。 祖母が好きだった落語の一つ。 それで私も好きになった。 『子は鎹』 父親はもうこの世に存在しないと、そう言われて育った私が、まさかその役割を果たすと誰が思っただろうか。 了
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加