side b  晴輝

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どこから話せば良いのだろう。 若気の至り……。 人生最大の大失敗は、あれだ。 当時、俺は駆け出しの建築デザイナーで、事務所に所属していたが数あるコンペもことごとく落ちて傷付いていた。 貧乏ながらも恋人がおり、彼女と将来の夢を語らうのがとても好きだった。金もないくせに結婚の約束までして。 彼女は、アルバイトも掛け持ちしながら鳴かず飛ばずの俺を献身的に支えてくれていた。 ある時、イタリアの美術館の建築デザインを募集するコンペがあり、それに奇跡的に案が通過した。奇跡は更に続き、ヨーロッパで有名な建築の賞をそれが受賞することになり、当時新聞にも日本人初のその快挙の記事が載ったくらいだった。 それからは急に仕事は増え出し、生活も漸く安定を見せ始めた。 それがいけなかった。 どこかで調子に乗りすぎていた。 独立し建築デザインの事務所を開いた。 夜な夜な献身的だった彼女を裏切る行為を幾度も繰り返し、結果的に彼女は突然自分の前から消えてしまった。 彼女が去ってからの俺はさんざんだった。 建築デザインは、彼女の閃きを図にして言葉を付け加えることが多かった。 彼女が去ってしまえば、自分だけの閃きなど何てつまらないものだったのだろう。 一時は空を見る勢いで増えてきた仕事が、やがて地を見下ろすほどに減っていく。 そうなれば、金の無いちっぽけな男に誰が興味を持つだろうか。 群がっていた女達は蜘蛛の子を散らす勢いであっけなく俺の元を去っていった。 それからは、女遊びには一切手をつけずに仕事だけにただひたすら没頭した。 いつかもし、再度自分がマスメディアにでも取り上げられて彼女の目に触れられたなら……。 そして、彼女に会うことがあればその時後悔しないために。 多分もう二度と会うことはないのかもしれない。 無駄な努力とは分かっている。 でも、未だに独身を貫くのは……そう。 彼女に今度こそ本当に結婚を申し込みたかったからだった。 もちろん彼女が自分と同じように独身を貫いていればの話なのだけれど。
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