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「ひどい男だろ?」
誤魔化すように、自虐的に笑った。
どうしてだろう。
ただのタウン情報紙の記者相手に随分と話しすぎてしまった。
……多分、似てるのだ。
唯一心から惚れた、その女に。
顔が、ではない。
ちょっとした仕草。
話を聞きながら俯いて笑う姿とか、やたらと頷くとか、落ちた髪を耳に掛ける際にその耳と逆の手でクロスして掛けるとか……。
不意に彼女の手の内のペンに気が付く。
「僕もそのメーカーが好きなんだ。奇遇だね」
「あ、これ書きやすいですよね。大学の入学祝にと母からのプレゼントなんです」
今時の若い子にしては随分と質素な入学祝だなと思った。
それが顔に出てしまったか。
「あ、家片親なので……大学進学させてくれただけでもありがたかったんですけど」
「そうかい。苦労したんだね」
だからだろうか。
その年代の子にしては落ち着きもあり、接しやすいと感じたのは。
そのシャープペンシルを最初に送ってくれたのもまた、彼女だった。
外国製の芯が折れにくいものだった。
金も無いのにどこから寄せ集めたのか『良い仕事には良い道具』と言って買ってくれたのだ。
そんな金があれば、自分の為に何か使えば良かったのに、彼女はそれを一切しなかった。
「今日はお写真もお借り出来ますか?」
若いときの写真を何枚か必要ということで、アルバムから数枚を引き抜き持ってきた。
当時は彼女が綺麗に並べてくれていたアルバム。
テーブルの上にそれを広げた。
そのうちの一枚を見て、インタビュアーである彼女が不振な表情を見せた。
「ん?どうしたんだい?何か変なものでも写ってる?」
等と珍しく、おどけて言った。
「……あの、これって……」
「ん?」
「……本当に……」
声が震え、彼女の唇が戦慄く。
中々次の言葉が出てこなかったが、俺は静かに待っていた。
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