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「……あの、一つだけ……私の話も、聞いてくださいますか?」
忙しくてこのインタビューですら断りたかったと言っていた彼は一瞬不振な表情を見せた。
それでも、どうしても言いたかった。
「私の名前は、母の名前と父の名前から、一字ずつをもらいました。母の名は千明と言います」
佐藤千晴、が私の名前だ。
それを書いてある名刺は既に彼に渡してある。
その名刺に目を落としながら、彼は口の中で呟いた。
「……佐藤……千明……。千明?……父親の名前を一字って」
目の前にいる彼は晴輝。
そして、今私の目の前のテーブルに並べられた写真達。
その中の一枚に、私は見覚えがあった。
わが家にもそれがある。
多分全く同じものだと思う。
幼い頃からずっと、それが父だと優しく母が見せてくれていた。
もう、自宅のは古びれている。
何度も私が見せてとせがんだ。
周りの子達が父と母両方揃っている姿を見るたびに、母に見せてとせがんでは、彼女が大切そうにタンスの一番上の右側の引き出しから出して見せてくれていたのだ。
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