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「お、おう。ここではちょっと。通報されるよ」
キョロキョロと辺りを見回した。人が来る気配はない。
「我慢できません。ホテル行きましょう」
加賀さんの体を抱き上げると、走り出した。
「ちょ、え? 本気で?」
「俺の家じゃ何もできないし、加賀さんのアパートまで、絶対我慢できない」
走りながら答えると、加賀さんが俺の首にしがみついてきた。笑っている。俺もつられて、笑い出した。
「倉知君、下ろして」
「イヤです」
「俺もすげえしたくなってきた」
首筋に顔をうずめてそう言うと、生温かい舌の感触がヌルヌルと這い上がってくる。思わず声を上げて、その場にしゃがみこんだ。
加賀さんが俺から飛び降りて、手を差し伸べてくる。
「二人で走ったほうが速いよ」
その手を取って、駆け出した。
夜道を疾走する二人。何にも縛られない。囚われない。
俺にはこの人が、すべてだ。
〈おわり〉
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