12月を過ぎた頃

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─雨は、小雨なんてかわいい言葉には足らない酷く強い雨へと変わっていました。 今朝の今日の天気予報は雨だけだった筈なのに、気がつけば雨の中に雪まで入り混じっていた。 どうせこんなにも酷く降るのなら、せめて…どちらかだけでいいと思うんです。 雨と雪の霞んでいく視界の中で、僕がふと見た先には、街角の壁に傘も持たずに佇む綺麗な女性がいたんです。 肩までの彼女の黒髪は、雨と雪で濡れきって、雨雫を次々と彼女の肩に落としていました。 白い刺繍の入った黒色のリボン、黒色のブレザー、通学中に何度か見たことのある制服も濡れきっていました。 僕は一瞬戸惑いましたが、まだ僕に気づいていない彼女の方にゆっくりと近づきました。 「…寒くないんですか?」 他に気の利いたような言葉は思い浮かばなくて、それが口から出た僕の言葉でした。 僕は暫く彼女の言葉を待ってみましたが、彼女は僕の言葉には応えませんでした。 ─本当は分かっているんです。 彼女の唇の色は紫色が混じっていた。 ゆっくりとぶつかった目は虚ろでした。 彼女の髪から、落ちても落ちても終わらない雨粒が『寒くない』わけなんてないと分かっていました。 ─傘を半分、彼女に差しました。 彼女はぶつかった虚ろな目で傘を一瞬見上げた後、またゆっくりと視線をアスファルトに落としました。 その彼女に連られて、僕も視線をゆっくりとアスファルトへ落としました。 「…っ、あ…!」 その時、彼女を見て目に止まった。 彼女の体は生傷だらけでした。 「な、なん…で……」 言葉が何も見つからないような感覚。 頭の中が真っ白になっていくような感覚。 彼女はずっと下を向いて俯いたままで、彼女がどんな顔をしているのかは分かりませんでした。 ─何を言えばいいか分からなくなった。 何を言うでもない彼女は、今どんな気持ちでずっと俯いているんでしょうか。 今朝のニュースが自然と頭を過ぎった。 僕は漠然とした言葉を抱えていました。 『どうにかしてあげたい』 そんなことは、きっと無茶なことなんだって頭では思っていて分かっていても。 そうでなくても臆病者だ…僕は。 けれど、放っておいて『大丈夫じゃない』ことも分かっていて、放っておくには彼女の姿が痛々しすぎました。 ─僕は彼女の冷えきった手に、臆病な顔の映った傘を押しつけた。
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